堤 未果『ルポ 貧困大国アメリカ』岩波新書

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)


貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるペースで貧困層へと転落していく。急激に進む社会の二極化の足元で何が起きているのか。追いやられる人々の肉声を通して、その現状を報告する。弱者を食いものにし一部の富者が潤ってゆくという世界構造の中で、それでもあきらめず、この流れに抵抗しようとする人々の「新しい戦略」とは何か。

前回の『反貧困』初め、いろんなところで言及されている一冊。現在の「貧困システム」を初期から警告していた本です。何より怖いのは、アメリカの状況をなぞるかのように日本の貧困が浸透・拡大していること。その背後にある自由主義・資本主義の問題を考え直す時期が来ているのかもしれません。

湯浅 誠『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』岩波新書

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)


うっかり足をすべらせたら、すぐさまどん底の生活にまで転げ落ちてしまう。今の日本は、「すべり台社会」になっているのではないか。そんな社会にはノーを言おう。合言葉は「反貧困」だ。貧困問題の現場で活動する著者が、貧困を自己責任とする風潮を批判し、誰もが人間らしく生きることのできる「強い社会」へ向けて、課題と希望を語る。

かなり感動した一冊。ワーキングプアネットカフェ難民といった最近の貧困の問題を総括し、ただ分析するだけでなくこの状況に対して声を上げていこうと主張する。特に、僕らが持ちがちな貧困に対しての連帯を阻む考え方や感情を丁寧に指摘し、その無意味さを教えてくれました。「当たり前に願うこと」の大切さを教えられました。

松尾 弌之『不思議の国アメリカ―別世界としての50州』講談社現代新書

不思議の国アメリカ―別世界としての50州 (講談社現代新書)

不思議の国アメリカ―別世界としての50州 (講談社現代新書)


州境をこえれはそこは別世界。エリートの生産地マサチューセッツ、大男と大女と大ボラ話のテキサス、全米の憧れの地カリフォルニア――など、風土も文化も法も異なる「州」から、アメリカ人の多様な生活と魂を浮き彫りにする。

ときどき忘れていたかのように読んでいるのがアメリカ文化の本。これはその一冊でアメリカ南部を調べていた時に買っていたもの。各州の特徴と連邦制との関係を論じています。堅苦しくなく、文学者らしい感性でアメリカの「らしさ」を述べています。でも、この感覚って今はどれくらい残ってるんでしょうかね…。

松本 健一『日・中・韓のナショナリズム―東アジア共同体への道』 第三文明社


靖国・領土・歴史教科書・憲法などを巡って噴出するナショナリズム―いま最も注目される歴史家が対立を和解へ、そして共生へと転換する道を開示する。

郷土(パトリ)との関連で注目した松本健一氏の著作。タイトルから融和的な東アジア外交の本かと思ったのですが、一筋縄ではいきませんでした。いわば「国民主義」による日本の復興と興隆する中・韓のナショナリズムに対して、健全なナショナリズムの成立とそれらによる対話型の東アジア共同体の設立を目指しています。簡単に右/左と分けられない論者だとの評価が良くわかりました。

西島 建男『新宗教の神々―小さな王国の現在』講談社現代新書

新宗教の神々―小さな王国の現在 (講談社現代新書)

新宗教の神々―小さな王国の現在 (講談社現代新書)


オカルトや超能力へのあこがれ、心のやすらぎを求める瞑想、神秘的な“生き神様”信仰など、いま、新しい宗教が人びとをひきつけている。林立する教団の小さな神々は、どこへ人びとを導こうとしているのか。日本の宗教風土のなかから“新宗教ブーム”の背景をさぐる。

80年代の新宗教ブームについてオウム事件前に書かれた本。いくつかの具体事例と国内外の宗教学の諸説を手際よくまとめた本。その分、概説書としての性格しかなく深い考察にいたってなかったのが残念。

大塚 英志『偽史としての民俗学―柳田國男と異端の思想』角川書店

偽史としての民俗学―柳田國男と異端の思想 (怪BOOKS)

偽史としての民俗学―柳田國男と異端の思想 (怪BOOKS)


日本民俗学の祖、柳田國男民俗学という領域が生まれるとき、柳田は何を見、何を考えたのか。「偽史」「オカルト」「ファシズム」「妖怪」「国家」柳田國男と異端者たちとの交錯は何を生んだか。

以前紹介した『「伝統」とは何か』から続く作者の関心である「柳田民俗学のもう一つの可能性」を追及した一冊。前回は「公民」でしたが、今回は「偽史」。国家に絡めとられない民俗の可能性を見通したいという著者の考えが出ています。新書ではなく単行本だったせいか、前作よりは研究書としてのスタイルが前面に出てました。

島田 裕巳『日本の10大新宗教』幻冬舎新書

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)


多くの日本人は新宗教をずっと脅威と好奇の眼差しで見てきた。しかし、そもそも新宗教とはいかなる存在なのか。「宗教」の概念が初めてできた明治以後それがいつどう成立したか案外、知られていない。超巨大組織・創価学会に次ぐ教団はどこか、新宗教高校野球をどう利用してきたか、などの疑問に答えつつ、代表的教団の教祖誕生から死と組織分裂、社会問題化した事件と弾圧までの物語をひもときながら、日本人の精神と宗教観を浮かび上がらせた画期的な書。

以前から新宗教、というか現代の宗教状況について関心があり、ヒットした一冊なので読んでみました。きちんと手際良く10個の代表的な新宗教の歴史・人物・特徴をまとめてます。基本的には高度経済成長と核家族・個人化に合わせて各新宗教が対応していく流れを確認できました。