大塚 英志 「とは何か」ちくま新書

<伝統>とは何か (ちくま新書)

<伝統>とは何か (ちくま新書)


「伝統」が、その担い手たちによって「作られる」ものであるという議論は、現代思想文化人類学の領域ではそう珍しいことではない。けれども「伝統」の消費者たちにとっては、それにつきまとっているまやかしや杜撰さはあまり問題にならない。その事情は、明治維新によって急激な変化を強いられた近代日本でも同様だった。「伝統」が「求められ」、「作られて」いくプロセスを具体的に検証し、「伝統」を「求めて」しまう理由について考える。

以前たまたま買っていて、柳田の地域概念について調べる際に再読しました。「伝統」と呼ばれる物が作られていく過程を「妖怪」や「ムー大陸」といった一際変わったものをテーマに、民俗学創成期に分け入って論じた本。やや結論先にありきな論証ですが、柳田民俗学の持つ(持っていた)多様な可能性を模索しようとしています。

姜 尚中、中島 岳志『日本 根拠地からの問い』毎日新聞社

日本 根拠地からの問い

日本 根拠地からの問い


人気政治学者と注目度ナンバーワンの論客が日本の「原点」を徹底討論。新自由主義に従属する国家をパトリ(郷土)から撃つ、興奮の語りおろし!
思想、天皇、反抗、文学―地の底からどろりとした情念、新自由主義に従属する国家をパトリから撃つ画期的な語りおろし。

読んでいて非常にワクワクした一冊。知的興奮度、心情的な共感と充実した読書ができました。ナショナリズムをめぐる議論を簡単に相対化・分解するのではなく、そこにどんな可能性を見出すのかを主張しているように思います。さあ、まずは大正・昭和期のアジア主義者の著作でも読み始めようかな…

雨宮 処凛『排除の空気に唾を吐け』講談社現代新書

排除の空気に唾を吐け (講談社現代新書)

排除の空気に唾を吐け (講談社現代新書)


日本中の悩める人よ、孤立するな! 無差別殺人、自殺、餓死、派遣切りなど、日々報道される「犯罪」や「事件」などから、深刻化する「社会の病」の原因と本質に迫る。
急速に進む「派遣切り」、餓死、無差別殺人など、事件・犯罪の背後に潜む「社会の病」は深刻化している。 しかし、社会的弱者の連帯の絆は強まりつつある。日本中の悩める人よ、孤立するな!

読みながら吐き気をもよおした一冊。悲惨な社会的弱者をその個人の問題だけでなく「社会」の問題として分析/共感している。しかし、何より怖いのはこの内容が、そんなの当然だろうとうそぶかれることだと感じた。

小山 龍介『STUDY HACKS!』東洋経済新報社

STUDY HACKS!

STUDY HACKS!


ビジネスマンの学習生産性を画期的に向上させるハック集。
資格試験勉強から、語学学習、MBA取得まで、若手ビジネスマンが身につけておきたい、
学習ノウハウを網羅。少ない努力で効果的に、かつ楽しく学べるコツを満載!
今売れているどの勉強本とも違う、第3の「勉強本」として売れる内容になっている。
「売り」は、楽しく効率よく学ぶノウハウが満載の「POPな勉強本」。
脳の働きを抜群に活性化させる「環境づくり」を詳細に解説。
シータ波がドンドン出てきて、普通に勉強していても、数倍の効率が上がります!

ライフハックの手法を使って「勉強」するためのヒントが詰まった本。この本の一番はそうしたヒントもさることながら、やる気にさせるシステムと書き方ではないかと思いました。

丸田 一『ウェブが創る新しい郷土 地域情報化のすすめ』講談社現代新書

ウェブが創る新しい郷土 ~地域情報化のすすめ (講談社現代新書)

ウェブが創る新しい郷土 ~地域情報化のすすめ (講談社現代新書)


ネットとメディアで地域の力を取り戻せ。
第1章 地域という幻想(境界の消滅;中心の消滅 ほか)
第2章 地域情報化とは何か(空間をデザインする都市計画;活動の場 ほか)
第3章 対話の共同体(シニアSOHO普及サロン・三鷹;富山インターネット市民塾;鳳雛塾)
第4章 想像の共同体(佐渡のお笑い島計画;PACと住民ディレクター活動地域SNS)
第5章 Web2・0以降の地域(CGMの限界;生活者のメディア ほか)

実体の希薄化した「地域」をSOHO、SNS、ネット動画を使ってどう再生・構築していくかについて考察した本。それぞれの試みはケーススタディーとして非常に興味深かったものの、それ以外となるとWeb2.0の論調とほとんど変りなくあまりにもネットを楽観視しているようにも思えました。地域に関することをしだすとどこかに失敗例を集めた本があれば、思ってしまいます。

亀山 郁夫『ロシア・アヴァンギャルド』岩波新書

ロシア・アヴァンギャルド (岩波新書)

ロシア・アヴァンギャルド (岩波新書)


詩,絵画,演劇,建築,音楽,映画などあらゆるジャンルにわたる芸術運動であったロシア・アヴァンギャルド.けれどもすべて既存のものの解体と完全に自由な世界の創造を目指した芸術家たちは,自らが熱狂的に迎えたロシア革命という巨大な政治の歯車によって無残に踏み潰されていった.社会主義後の混沌の現代に彼らの理想と夢を今一度解き明かす.

以前見た『ロシア革命アニメーション1924-1979 ロシア・アヴァンギャルドからプロパガンダへ』に感動して、思わず一気読みしました。内容は正統的な芸術運動紹介というところでしたが、この時代にロシアに非常に強い芸術への希求があったことがわかりました。

ジェームス・M. バーダマン (著), 森本 豊富 (翻訳) 『アメリカ南部―大国の内なる異郷』講談社現代新書

アメリカ南部 (講談社現代新書)

アメリカ南部 (講談社現代新書)


「古き良き」大農園文化(プランテーション)。一方に、過酷な生活から花開いた黒人文学や音楽。合衆国史を重層的に彩り、今なおアメリカの深奥に生きる「南部(ディクシー)」世界。

後輩の学会報告の予習のために読み始めた本。アメリカ南部という独特の文化をもつ地域を歴史のみならず、風土・文化・人物から読み解いた入門書という感じ。